「…小波さん?」
「あっ……えっと、推理小説、です」
「見せて」
「…はい」
言われるがまま、しおりを挟んで閉じてから渡す。
まただ…。また、名前呼んでくれた。
なんで知ってるの?
そう聞きたいけど、学年の王子様を目の前にして口が開けない。
「こんな難しい本読んでんの? すげぇね」
「…すごくは、ないですけど…」
「え~。小波さんって自分のこと過小評価するタイプ?」
…過小評価。
確かに、その通りだ。
自分は周りより劣ってると信じて疑わないし。
「貸してくれてありがと」
そういって返ってきた本。
膝の上に置いて、表紙を眺めた。
…一度でも、学年の王子の手に渡ってしまった。
普段限りなく地味な生活を送ってるわたしにとっては大事件。



