許していいわけが無い。
そんなことは分かっているのに、朔と別れるほうがもっと怖いなんて思ってしまう私も十分おかしいんだと思う。

それから適当に駅前をぶらついて、途中でカフェでゆっくりしたりした。

朔はもう盗聴のことなんて忘れたみたいに“普通”だったし、私にとっては全然日常なんかじゃなくて、けっこう重大な事件なのに、朔が何も言わないから私も言えなかった。

これ以上蒸し返したら取り返しのつかないことになるんじゃないかって思った。

五時過ぎには陽が暮れてきて、冬だなぁなんて思った。

明日のバイトが早番の私を気遣って、ちょっと早いけど帰ろうかって朔が言った。

家の前まで送ってくれた朔は、ポケットから空っぽの香袋を取り出した。

「ごめんね。壊しちゃった」

「うん…」

「また何か買うよ」

「いいよ。気にしないで」

同じような物を買われたらまた何か仕込まれるんじゃないかって気持ちもあった。

でも、きっぱりと断ってすぐに、しまったとも思った。

まるで朔からはもう何も貰いたくない、全然嬉しくないみたいに聞こえたかもしれない。

朔を不愉快にさせたかもしれない。