君が死ねばハッピーエンド

教室に戻ったら、朔は後ろの隅のほうでメイクをしてもらっているところだった。

私と目が合った朔は、明らさまに目を逸らした。

「朔?」

「ダメダメ、返事しないよ」

朔にメイクをしながら、女子が苦笑いした。

「朔ー?どうしたの?」

「拗ねてんだってさ。シイナちゃんと担当の時間が丸っきり違うことに」

「え?」

「ほんっとあんた達は。本番はちゃんと集中してよねー」

軽く言いながら、どんどん朔の顔に色をつけていく。

朔はもう一度私を見たけれど、本当に何も言わなかった。

「えーっと、じゃあ朔。ヴァンパイア頑張ってね」

クルッと朔に背を向けたら、
朔が「シイナ!」って私を呼んで、女子が「こら!立たないで!」って怒った。

私は本当に怒ってるわけじゃない。
子供みたいに拗ねてる朔に、ちょっと意地悪してるだけだ。

ちーちゃんと文化祭を回る為に、持ってきていた小さいトートバッグに貴重品をまとめていた時だった。

パッと教室に入ってきたちーちゃん。
キャンバスを抱えている。

それを、私の前で床に叩きつけた。

海にも空にも見える水色に、絵とは思えないくらいリアルな光の黄色や白。

だけど絶対、意図的じゃない黒や、どす黒い赤のぐちゃぐちゃの線。

所々切りつけられたような痕。

「ち…ちーちゃん…コレ…」

ギュッとスカートの裾を握り締めて、ちーちゃんは俯いたまま小さく震えている。

ザワザワと騒がしかった教室がシンと静まり返る。

棺の事件の話題も少し落ち着いていたのに、教室の雰囲気はまたあの日に逆戻りした。

「酷い…」

「完全に事故じゃ無いじゃん」

ぽつりぽつりとこぼれ始めるクラスメイト達の声が、ちーちゃんの傷をもっと抉っていくようで…。

「誰が…」

「なんで?」

「…え?」

言いかけた私の声を、ちーちゃんが遮った。

「ちーちゃん…?」

「なんで?」

「なんで…って…」

「なんでこんなことしたのっ…!!!」

ちーちゃんの叫び声に、教室中が私を見た。

「え、シイナ…?」

「まさか…」

「でも…」

口々に私に向かって投げつけられる声。
ちーちゃんのたった一言で、私の言葉は待ってくれないまま、私は一瞬で犯人になった。