「ううん。俺がいつも早く来過ぎてるから」

「違うわよ。この子がぐーたらし過ぎなのよ」

サラッと言ったママをキッと睨む。
そんなことはどうってことないって言うみたいに、「早く行きなさい」って涼しい顔で言いながら、ママはリビングに戻っていった。

玄関を出た瞬間に朔が手を握ってくる。
もうすぐ一年が経つのに、未だに慣れなくてドキドキしてしまう。

不釣り合いだって思われてないかな。
きっと私を恨んでる女子は沢山居るんだろうな。

だからこそ私は、素敵な女性になりたい。
その方法はよく分からないんだけど…。
せめて朔にずっと好きでいてもらえるようにいられたら。

毎日、毎日そればかりを考えていた。

「シイナ」

「うん?」

「文化祭、誰と回るの?」

「クラスの担当時間外は、ちーちゃんとだよ」

「…ふーん」

もうすぐ今年も文化祭がやってくる。
朔と付き合って丸一年。

私達のクラスはお化け屋敷をする。
私は大道具の係で、段ボールで井戸を作ったり、鳥居を作ったりしていて、朔は脅かす役でヴァンパイアをやる。

衣装合わせの時に青白く、口元に血を流しているメイクをした朔はとても美しかった。

ちーちゃんとは中学からの親友で、高校生になってもずっと同じクラス。
大学に行っても社会人になっても、ちーちゃんと離れて暮らす日が来ることは想像できない。

私のことを一番知っていて、理解してくれるのもちーちゃんだと思う。
朔と付き合う前も誰よりも応援してくれて、喜んでくれた。

「じゃあ文化祭はあんまり一緒に居られないかな」

朔の、少し残念そうな口調にでさえキュンとする。
こんな人が私の彼氏だなんて奇跡だ。
もはや意味が分からない。
なんでこの人は、私のことが好きなんだろう。

「後夜祭は一緒に過ごしたいな。その…特別な日だから…」

チラッと横を見たら、朔が優しい目で微笑んでいた。
咄嗟に目を逸らした私に、朔が「可愛い」って言った。