世界が、全ての音を失ったみたいに無音になって、体中の力が抜けたみたいに、突き立てたハサミからスルッと自分の手の平が離れた。

グリップに繋がれたままブラブラと揺れるうさぎ。

わずかに上下する朔の肩。

「………きゃぁぁぁあああああ!!!」

つんざくようなちーちゃんの悲鳴で、再び全てが動き始める。

「さ…朔…なんで…」

ハサミを引き抜こうと、ゆっくりとハサミに手を伸ばす。

「シイナちゃん!抜いちゃダメだ!…救急車!」

渚先輩がスマホで救急車を呼ぶ声が聴こえる。
でも私と朔の空間だけ切り取られたみたいに、ただテレビを垂れ流してるだけみたいに、先輩の言葉はよく聞き取れない。

「朔…朔なんで…朔…ヤダよぉ…」

「シイナ…だいじょうぶ…大丈夫だから…。こんくらいじゃ死んだりしない」

「なんで…」

「シイナを守るって…約束しただろ。千種のことは俺の責任だから…シイナの手は汚しちゃダメだ…」

ちーちゃんは気が動転してしまったのか、壁に張り付いたまましゃがみ込んで、頭を抱えて朔の名前を呼び続けたり、泣きじゃくって動けずにいる。

生ぬるい朔の血が、抑えようとした私の手の隙間からこぼれていく。

先輩がベッドのシーツを剥がして、ハサミと朔の体の隙間を埋めるようにグッと押さえた。

「朔くん、シイナちゃんも大丈夫だから。絶対に大丈夫」

「せんっ…先輩…ごめんなさい私…」

「大丈夫、大丈夫。すぐ救急車来るから」

さっきは朔がしてくれたみたいに、今度は私が朔を膝に寝かせて、胸に顔を埋めて…嗚咽することしかできなかった。

なんで…なんでなんでなんで…

救急車のサイレンの音が遠くに聴こえる。
苦しいはずなのに、ゆっくりとした朔の鼓動が耳元で聴こえる。

「朔…死なないで…私…私が朔を…」

「このっ…!」

ちーちゃんが後ろから私の髪を鷲掴みして、朔から引き剥がす。

「何やってんだよ!」

渚先輩がちーちゃんを取り押さえたけれど、ちーちゃんは暴れて奇声を発しながら私に叫び、掴み掛かろうとする。

「人殺し!!!お前が死ね!朔を返せ!人殺し!人殺し!!!」