時計を見ると、次の授業まで残り2分。ふぅ、と息をついて「みんな、2分前なったよ!」と全員に声をかける。
 
 
 私たちの通う、涼誠大付属校(りょうせいだいふぞくこう)では、授業の1分前になったら席に着いて黙想をし、休み時間とのメリハリをつける、というのが校則としてあるので、少し面倒臭いのだが、女子総務長である私と男子総務長で幼馴染の井上陸と一緒に声掛けをしなければならない。


「陸、そろそろ」
「あぁ、ごめんね綾乃。橋本くんとちょっと話してて」


 クラスの橋本という男子と話をしていた陸に声をかけたところ、そんな返事が返ってきた。

 
 嘘つけ、と心の中で呟く。小さい頃からの仲で、陸のことはとてもよく知っているけれど、真の『お人好し』というやつで、今だって、普通なら『勉強を教えていた』と言うところも、わざわざ相手が気にしないように言うのだ。
 それを素でやっているのだから、本当に、真のお人好しという言葉が似合う。


 クラス全員が席に着いたのを確認してもう一度、時計を見る。