言うことを聞かないハルに苦笑を返し,「だから違うってば」と言っていると,タイミングよく「明けまで15秒。メイクさん入りま~す」という声が入った。
先ほど気を付けて頬を叩いたつもりだったが,少し痕がついていたようで,重点的に直された。5秒前,という声が入ると,メイクさんが頑張って,というようにガッツポーズをしたので,ありがとうございますというように笑顔で小さく会釈した。
3,2,1,はい! という声が聞こえる。
ふっ,と息を吐き出して,吸って。
カメラに笑顔を向けて。
先程陸にもらった言葉を思い出して。
――『ありがとう。君がいなかったら,今の自分はいなかった』


