君と歩む美しい世界は,きっと

 とりあえず,『どうだった?』と聞くと,5秒も経たないうちに『いつも通りだったね』と来た。
 彼の,返事が速いところもいつも通りだった。
 それは,彼の事を考えれば仕方のない事なのだけど,やはり眼をそむけたくなる自分がいる。


 『陸の声が聴きたい』と打ってから,無理な事だと思い,消した。こんな非常識なこと,彼に言えるはずもない。
 他でもない,私なら,尚更(なおさら)


 『ごめんね,もう時間』と送ってから,少し考えて,『ありがと。陸がいなかったら,きっと今の私はいなかったと思う。』と送る。
 相変わらず短くて速い『頑張って』という返事に既読をつけて,電源ボタンを押す。一瞬で画面が暗くなる。
 が,また画面が明るくなる。あ,と声を上げて内容を確認する。

 スマホを透依に預け,一度両頬をメイクが崩れない程度にパチンと叩き、彼の顔を思い出す。釣られるように首の傷も思い出してしまって、振り払うように頭を振った。


 私は、大丈夫。味方がいる。たくさん。


「ごめんハル。まだ時間大丈夫だよね?」
「あと60秒。全然大丈夫。さっきのは彼氏に?」

「ニヤニヤしないで、幼馴染みだから」

「なーんだ。でも綾乃、その幼馴染みに言われてこの仕事選んだんだろ? じゃあ大事な人じゃん」

「だいじ、っていうよりかは、たいせつ?」

「もっと上か」

「でも、声優になれーって言われた訳じゃなくて。なんていうか、その人に聞いてもらえる仕事がこれだったっていうか、うーん」

「何それのろけ?他所(よそ)でやって」