――『ありがとう。君がいなかったら、今の自分はいなかった』
「じゃー、次の質問ね。静岡県在住、しーちゃん。から今度は綾乃ちゃんに。『綾乃さんの声が大好きで、アニメも全部見てます! 綾乃さんが主人公役だった、この前の「あにとわたしとふたりじめ、」は、お義兄さんとのラブストーリーだったけど、綾乃さんに兄弟はいますか? わたしは姉と妹が一人ずついます!』とのことです。綾乃ちゃん、どう?」
聞いているときの表情から、さらっと笑顔を作り、MCの田島さんを見る。
「私は双子の兄がいます」
「え、双子!? 綾乃ちゃん双子だったの!?」
「えっ、初耳初耳」
MCのレジェンドとしても名高い田島ダイゴさんと、一緒に宣伝をしにきた声優仲間の天野ハルがそう言って、ビックリした顔を作る。
「あぁ、違くて。兄が2人いて、その兄が双子なんですよー」
「あー、そういうこと。綾乃からこの前聞いた話と違うじゃんって思った」
「あれ、ハルくんは元々知ってたの?」
「はい。っていっても、兄が2人いるってことだけですけどね」
「そうだったんだ。では、綾乃ちゃんの家族構成も分かったところで、最後の視聴者からの質問です。あ、これも綾乃ちゃん宛てだね。わお短い。『市川さんが声優を目指したきっかけは何ですか?』。これは,都内在住の中学生、ちょんかいからの質問です。綾乃ちゃん,ズバリ?」
ああ,とカメラに向かって笑みを見せる。まるでそこに、ちょんかいさんがいるように。
こういうのは、得意だ。
「実は私,高校生まで公務員を目指していたんですよ。小学校の先生を」
「え、そうなの? 綾乃ちゃん、小学から高校までずっと諒誠大付属だよね?」
「はい。でも、高校生の3年生のときに、これは本当に私の目指したい夢なのかな、って立ち止まってしまって。そんな時に幼馴染に『綾乃の声は綺麗だから、ずっと聴かせてほしい』って言われて。そのとき【声】について調べていたのも相まって、はまっちゃったんですよね。そこからは必死でしたねぇ」
「や、綾乃ちゃん、3年で希望変えるとか勇気あるねー。大変だったんじゃない?」
「いやもう本当に! でも、諒誠大学に声優の専門学校もあったので、その仕事を本格的に目指しました。幸い、親も兄も応援してくれたし、幼馴染にも友達にも先生にも助けてもらって。感謝しかないです、ほんと!」
「なるほど,そんなことがあって、今があるのね。さて,そんな綾乃ちゃんやハルくんが声優を務める映画,『月に祈りを』が今週金曜日公開されます。ハルくん、綾乃ちゃん、この映画のあらすじをお願いします」
先に口を開くのはハル。前持ってそう決めてあった。
「はい。この映画は,井上陸さんの小説、『月に祈りを』を映画化したもので、伊兎野 スイ先生によるコミックスも、現在連載中で、単行本が先日累計70万部を突破しました!」
「この作品は、高校生の主人公・星蘭が家族や人間関係,進路などに悩まされながらも,律という転校生とともに自分の道を二人で切り開いていくという物語です! こちらは,役者さんと声優さんの2人で1人を演じていく初めての試みの作品となっていて,私が声優を務めている星蘭は鶴見愛莉さんが,律役は野馬亮汰さん、声優は、こちらの天野ハルが,担当しています!」
カメラに笑みを向けて,できるだけ明るい声を心がけて話す。そうすると,田島さんが引き継ぐようにして,話し出す。
これも先に決められている。
というか、カンぺにある。


