就業時間が近づいて、これからやろうとしていることを考えると、更に緊張して、ドキドキしていた。そのドキドキは胸の高鳴りじゃなくて、うまく伝えられるかということ。
仕事は業務時間内で終わって、帰りの支度をする。周りはまだまだ帰る気配がないけれど、定時に帰れた方がいいに決まっている。

「お先に失礼します」

挨拶を済ませて、約束の場所へと向かう。仕事の最中もどう言ったらいいだろう、どう伝えたらいいだろう、これも言って、あれも言ってと話の流れを考えていた。その通りには行かないだろうけど、人に何かを伝えることをしてこなかった私には、とても難しい。
ペットボトルのふたを開けて、一口水を飲んだけど、なかなか喉の渇きは収まらない。きっと緊張しているせいだ。
部長が来るまでの間、立ったり座ったり、窓から見える会社の灯りを見たり、星を探してみたりと落ち着かなかった。

「深呼吸」

深呼吸もしたけど、どんどん呼吸が早くなったけど、それはいつもの過呼吸とは全く違う呼吸で、心臓もドキドキを超えてバクバクしていた。

「白石」
「……!」

(大丈夫よ落ち着いて)

部長がやって来た。腕時計を見ると、終業時刻より40分程過ぎているだけだ。急がせてしまったのだろうかと、心配になった。

「申し訳ありません、お忙しいときに」
「待たせてすまなかった」
「いいえ、こちらこそ部長の業務を考えずに、申し訳ございません」
「気にするな」

部長の顔を見て決心が揺らいでしまったけど、逆に緊張はなくなり、すっと言葉が出てきた。

「部長にお話があります」
「わかった」