部長は私を好きだといったけど、人の心はいつでも揺れ動いている。
昨日は好きでも今日は嫌いになるかもしれない。未来のことは誰にも分からないのに、何故か私は、とっても部長にイラついてしまっていた。

(部長は私の彼じゃないでしょ)

部長を待つ地下駐車場で、駐車している車を見ながらなんだか悶々としていた。そんな時、歩いてくる人の姿があって、とっさに自動販売機の横に隠れた。

(あれは社長と水越さん?)

やっぱり社長は就業後も仕事があって、秘書も同行しなければならないから大変だな。毎日残業なのだろうな。

(え……?)

二人の様子がおかしいことに私は気づく。

「黙っててやってくれないかな」
「……!!」

突然声をかけられて、大きな声を出してしまう寸前だった。夜景の幽霊事件といい、今といい、後ろから突然声をかけないでくれないだろうか。

「び、びっくり……した……」
「ごめん、驚かすつもりはなかったんだ」

部長は私の心臓に良くないことばかりをしてくれる。駐車場の二人は社長が水越さんの腰に手を回して、エスコートをしていた。明らかに恋人同士と分かった。

「立場的に公に出来ないし、外でデートも出来ないらしいからさ」
「わ、わかりました」

でも、なんでそんなことを部長が知っているのだろう。管理職ともなれば、社長のプライベートまで把握しているのかもしれない。

「行こうか」
「はい」

一方で私だって誰かに見られたら嫌だ。社長と水越さんなら仕事と言えば済む話だけど、私はただの庶務担当で、部長と車に乗って仕事になんか出かけない。
車に向かう前に、周りを確認していると、

「大丈夫、誰もいないよ」

部長が言った。様子を窺っていれば分かるのは当然だけど、部長は私のことはなんでもお見通しみたいだ。