「お母さんは何がいいかな?」
「やっぱりシワ、シミ予防の化粧品じゃない?」
「洋服とか、靴とかエプロン、あ、感謝の花束とかは? フレンチかイタリアン、和食もいいわね。どう?」
「母の日じゃないんだからさ」
「そっか」
「最近、鏡の前にいる時間が長いから、きっと顔のシミ、シワを気にしてるのよ。化粧品が無難だし、めっちゃ喜ぶと思う」
「そうね」

初任給が出ても感謝の贈り物をせず、誕生日、母の日もお金を掛けずにプレゼントをしてきた。今となっては、本当に冷たい娘だったと思う。自分のことを守るだけで精一杯で、目標の整形に向かっていた私は、周りが見えていなかった。
綾香の提案通り、百貨店の化粧品コーナーに行き、デパコスの中から母親の年代に効果のあるコスメを買った。

「めっちゃ高いね」
「問題ないわ」
「さすが、お姉さま」
「そんなことを言ったってもう買わないわよ」
「もう十分でございます」
「現金な子ね」

綾香は私がプレゼントをした戦利品を高々と掲げて、頭を下げた。前を向く切っ掛けとなったのは綾香のお陰なのだから、安いもの。

「あ、お姉ちゃんもメイク道具を揃えなくちゃ。すっかり忘れてたわ」
「アドバイスをお願い、綾香」
「任せて」

下地はこれ、アイシャドウはここと化粧品売り場を回る回る。何がなんだか分からない状態でも顔を作り上げるメイク用品が一通り揃った。
そして、もっと変わったのは私の顔。
メイク売り場を移動しながら、店員さんたちが化粧品を紹介しながら私にメイクをしていった。
こんなに混雑している売り場で顔を前面にさらすのは、さすがに躊躇してしまったが、綾香が私を睨みつけて首を横に振った。
そんなことを続けていくと、最後には全く気にならなくなり、最後の最後に見た顔は、別人かと思うほど、綺麗にメイクが仕上がっていた。

「本当にお綺麗です」
「あ、ありがとうございます」

素直に受け止め、お礼を言った自分に驚いた。そして、呼吸も激しくならず、発作も起きない。思わず綾香の顔を見たら、泣きそうな顔で笑っていた。