「……すまない」

 そう言うと、葉月先輩は額に手を当て、軽く頭を左右に振った。

「いえ。……わたしの方こそ、勝手なことをして、すみません」

 葉月先輩は、わたしの方を見ずに、机の方へと戻っていった。

「あの、葉月先輩」

 わたしの問いかけに、葉月先輩が顔を上げる。


 ……やっぱり聞けないよ。

「一花さんって誰ですか?」なんて。


 ひょっとして、葉月先輩の好きな人?

 それとも……お付き合いしている人?

 葉月先輩のような家柄の人なら、許婚という可能性だってあるかもしれない。


 葉月先輩、好きな人がいるのに、わたしに膝枕なんかさせているの? 

 だったら、その人にしてもらえばいいのに。

 そんなことを考えていたら、不覚にも涙腺が緩んで、ぽろぽろっと涙がこぼれ落ちた。


 ちょっと待って。

 なんの涙?

 わけわかんないよ、こんなの。


「……すみません。今日はこれで失礼します」

 葉月先輩から顔を背けると、わたしはカバンを持って足早に生徒会室をあとにした。


 なんであの状況で涙が出なくちゃいけないの?

 葉月先輩は、わたしをただ枕代わりにしているだけで。

 葉月先輩がわたしのことをどう思っているかなんて、考えたこともなかったはずなのに。

 どうしてこんなことで動揺してるんだろ。