昔々のおはなし。
 昔々、あるところに、お父さんとお母さんと、娘の3人が仲良く暮らしておりました。
 お父さんもお母さんも、それぞれお仕事があって毎日のように働いていました。
 2人は忙しくしていましたが、娘はちっともさびしくありませんでした。
 2人はできるだけ娘をかわいがってくれていたし、娘はいきいきしている2人を見るのがとても嬉しかったからです。
 お父さんとお母さんは、娘のその笑顔を見て、ますます一所懸命に働きました。
 2人の仕事は、そのぶん忙しくなりました。
 一緒に食事する日が減りました。
 一緒におしゃべりする時間が減りました。
 一緒に寝るひまがなくなりました。
 ある日の夜のことです。
 娘はリビングのドアから明かりがもれているのに気づき、消しておこうと近づきました。

「……?」

 近づくと、お父さんの怒ったときのような声が聞こえてきました。

「そもそも俺も母さんも男がほしかったんだ」
「女なんてなんの役にも立たない」
「彼女はな、俺のために男の子を産んでくれたんだ」

 優しいお父さんは、もういませんでした……。