部屋に戻ると、お母さんはテキパキと私の荷物をまとめ始めた。
「さっ、明日の9時には出るからね」
明日の9時!?
なんか、随分と急な話じゃない…?
「花鶏も、由鶏(ゆとり)と会うの楽しみでしょう?」
由鶏とは、私の妹。小学5年生。
「楽しみ、だけど……」
「だけどって…どうしたの?病院で友達でもできたの?」
「うん」
こくりと頷くと、お母さんはにこっと微笑んだ。
「なら、LINE交換してらっしゃい。今からならみんないるはずよね」
「もう交換してる」
あら、という顔をするお母さん。
「そうなの?それなら、お見舞いに行けばいいじゃない」
お、見舞い……。
確かに!
「お母さん、天才!」
「お金はあげるから、お花でも買って行ってあげたら?」
「ほんと?ありがとう!」
「そのくらいいいのよ」
お母さん、いつにもまして甘いな……なんでだろう?
私が退院して、嬉しいのかな…うん、そうだ!
退院祝いだっ…!
「飲み物でもいる?」
「うーん……なら、ロイヤルミルクティーがいい。あの紅茶花香の」
「紅茶花香ね。わかったわ」
お母さんが出て行ったのと同じタイミングで隼人からLINEがきた。
『花鶏、さっきの女達誰?』
『わかんない』
そう送ると、一瞬でついた既読。
『わかんないとは??』
『アイツら完全に花鶏のこと虐めてたよね?』
『私記憶喪失みたいで』
『は??』
そうだよね……まぁそうなる。
『あの子たちは私がトラウマ的なことで忘れた人達なんだって』
そう答えると、メッセージが返ってきて。
『花鶏今から会えない?』
えぇっ!?今から!?
『お母さん帰ってきてから聞くから少し遅くなるかも』
『いい。中庭のベンチで待ってる』
お母さんを待つ間、写真のフォルダを確認する。
もしかしたら、記憶の手がかりになることがあるかもしれないから。
とゆーか……私はどうして忘れてしまったんだろう?
何か……あったのかな。
「ただいま花鶏〜」
「お母さん、ちょっと今から出かけてきてもいいかな」
「いいわよ。挨拶してらっしゃい。はい、紅茶花香」
「ありがとう!」
お母さんからペットボトルを受け取り、スマホを持って部屋を出た。