「目立つのは俺じゃなくて俺たちじゃないかな」
「それはどういう意味?」
「さっきのご婦人が言ってたじゃないですか。お似合いのカップルだって。美男美女カップル」
「ああ、それで思い出した。ねえ、わたしきみの彼女じゃないんだけど」

 美女なんて言葉では、もう誤魔化されないわ。危うく彼の失言を見逃すところだった。こういうことはハッキリきっちり注意しておかなくてはいけない。

「まあ、いいじゃないですか」
「良くない!」

 吊り革に掴まりわたしを見下ろしている目に笑みが浮かんでいる。何がおかしいの?

「嘘を言っちゃだめでしょう」
「今は嘘でも…」
「えっ、今はって?」
「その先は言わぬが花です」

 言い返そうとしたら、降りる駅に到着したことを告げる車内アナウンスと共に、ガーっと電車のドアが開いた。