「おっそいなあ、もう」

 通りの向こう側にあるビルの屋上の大きなデジタル時計を睨み、左腕にはめた時計をイライラした気分で睨む。連絡が来ているかもしれないと思い、スマホを見る。その繰り返し×11回。さっき少し遅れると連絡が来てから17分経った。

 年上を待たせるなんていい度胸じゃないか。それに時間にルーズな男は嫌いなんだけど。

 …何かアクシデントでもあったのだろうか。

 下ろしたてのハイヒールの踵を、駅前に敷かれている煉瓦色のタイルにコツコツと打ち付け、組んだ腕を解いてまた時計を見る。

 本来の待ち合わせ時間から34分も過ぎている。