「わたし彼女じゃな…」
「実はね。先ほどこの人に助けてもらったんですよ」
「えっ、どういうことですか」
「離れた街に住んでいる息子夫婦が来てくれることになって、駅で待ち合わせしたんですけど、ね、滅多に外出しないから改札口がわからなくなって。西口と言われたんですけど、この駅は何か所も改札口があるでしょう?」
「ええ。確かにそうですね」
「それであっちへ行ったりこっちへ行ったりしてるうちに自分がどこにいるか分からなくなって、途方にくれているとこの人が…」

 ご婦人は、居心地悪そうに佇んでいる黒崎くんを見た。

「この人が、どうされたんですかって声をかけてくれて。それで待ち合わせ場所の反対側にいることが分かって案内してもらったんです」
「なるほど」