「でも羽衣石家の御曹司かぁ。向こうの家族から反対とかされなかったの? ウチの坊っちゃんを誑かして! みたいな」
「え。ああ、いやそれが全然……このまえ感謝のお手紙もらっちゃって」
「何それウケる」

 ウケている場合ではない。文乃は戦々恐々としながら手紙を開いたと言うのに。


 ──息子は興味のあることには一直線なのですが、そうでなければ見向きもしない朴念仁ゆえ、もう結婚はしないのかと思っていたぐらいです。高良さんが良ければ、息子のことをよろしく頼みます。


 などなど。他にも「ずっと勉強か仕事しかしてこなかったので少し変なところがあるかもしれない」とか「でも絶対に暴力は振るわないので安心してほしい」とか何故か多種多様なフォローが入っており、文乃は大富豪の家系と恐れていた羽衣石家が普通の家族であることを知って、良い意味で拍子抜けしたものである。

「……ふーん、とりあえず文乃が元気になって安心した。これからは羽衣石さんにたっぷり甘やかしてもらいなね〜」
「あっ、佳奈もう行くの?」
「このへん初めて来たから適当に散歩してくるー。さっき美味しそうなラーメン屋あったし」
「なら夜にでも一緒に──」

 文乃の申し出を、佳奈がやれやれとかぶりを振って遮る。

「外見てみ?」
「へ? ……あ!?」