青信号に変わり、また街並みが流れ出す。

 文乃は彼の横顔をじっと見ながら、これは多分何か思い違いをしていそうだなと、簡潔に話すことにした。

「あの人に腕を引っ張られたときに、羽衣石さんから頂いたティーカップを割っちゃったんです」
「え……」
「ほんと、この人嫌なことしかしないなって。だから、つい……気付いたら子供みたいにぼろぼろ泣いてました」

 話しつつ、小箱の包装を解く。蓋を開けてみれば、取手の部分がぽきりと折れたティーカップが現れた。飲み口も欠けていて、これでは使い物にならないだろう。

 文乃は溜息と共に蓋を閉ざす。

「……せっかく羽衣石さんが選んでくれたのに、一回も使えませんでした。すみませ……」

 そのとき、昴が静かにブレーキを踏み、車を止める。

 どこに来たのかと思えば、ひと月前に昴が大金を持って現れた公園だった。誰もいない夜の公園を一瞥し、文乃が運転席に鼻先を戻すと。

「──文乃さん」