『文乃ってさぁ、都合好く利用されちゃうタイプだよね』

 大学時代、友人の佳奈にそんなことを言われたことがある。

『何ていうか……甘やかしすぎ? 男を付け上がらせる才能って言うのかな?』
『え……な、何? 急に』

 特定の彼氏を作らずにいろんな男を取っ替え引っ替えしていた派手な佳奈は、新しいネイルを眺めながら言った。

『最初は二人とも甘々で、ああ仲良しだな〜って思うんだけどさ。毎回、いつの間にか文乃が召使いみたいになってるじゃん? 講義ノート見せてあげたり、デートも文乃に任せっきりだったり、ご飯奢ったりさ』
『めし、つかい……』
『──で、最後には決まって相手の男が浮気して別れちゃう』

 心当たりがありすぎる文乃は、何も言えずに目を泳がせる。

 手持ち無沙汰にアイスコーヒーを掻き混ぜれば、佳奈のカラフルな指先が外を差した。

『あんなふうにね』

 錆びついた動きで彼女の指先を追ってみれば、案の定、付き合っているはずの彼氏が知らない女の子と手を繋いで歩いていた。

『…………誰あれ……』
『どうせサークルの後輩じゃない? あいつテニスサークルっしょ? コンパばっかしてテニスしてないけど』
『……』

 文乃は力なく溜息をついて、彼氏の連絡先をその場で消した。ぐったりとテーブルに突っ伏してしまった彼女に、友人はあっけらかんと告げる。

『文乃、優しいし可愛いんだから。貢がせるぐらいが丁度いいと思うよ』