「……文乃ちゃんって彼とまだ付き合ってないの?」
「どぇ、えっ」

 ある日の閉店業務の最中、おもむろに店主が尋ねる。
 モップ掛けをしていた文乃が危うく転びそうになれば、店主がけらけらと笑った。

「頻繁にお店に来ては順調に文乃ちゃんのこと懐柔してるからさぁ。文乃ちゃんも楽しそうだし」
「か、懐柔って……」
「こんな寂れた喫茶店で話してないで、たまには外でデートしておいでよぉ。連絡先ぐらい聞いてるんでしょ?」
「あ……そういえば名刺を頂いたので、電話番号は分かりますけど……でもあれお仕事用じゃ」
「お、乗り気だね」
「違います今のはただの確認です!」

 またまたぁ、と店主にからかわれながら、文乃は急いで掃除を終わらせたのだった。