急に名前を呼ばれて、ドキッとする。
「悪いこと…」
ただ復唱する私。
菱田くんから目が離せないのは、彼が私から目を逸らさないから。
ドキドキするのは、菱田くんの瞳が何度か揺らいだのが分かったから。
それに気付いているのに動けないのは、修学旅行の空気にのまれているから。
「キス」
「菱田、くん」
「しよ」
頬に触れる菱田くんの右手が、すごく冷たく感じた。
何で、どういう感情で、私のこと、どう思ってるのか。
何も聞けないまま、流されるまま。
私たちは、一度だけ。ただ触れるだけのキスをした。
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