「ち、ちが…、いま目の前にいるから」
「ハイハイ」
「本当に…」
「そうだね」
「……菱田くん、おもしろがってる」
「だっておもしろいもん。何だっけ。変に意識して?俺のことを?」
楽しそうに煽る菱田くんに、私は顔を真っ赤にして怒るしか出来ない。
「もう…聞こえてるじゃん、さいあく」
ほぼ自然に乾いてしまった髪で、自分の目から下を隠した。
それを見た菱田くんは、私に上着のフードを被せて「冗談」とひと言。
「俺も今日1日楽しかった。委員長いたから」
そう言って微かに笑った菱田くんが、東京湾のキラキラに照らされて、とてつもなく大人っぽく見えて、目が離せなかった。
反則だ。こんなところで、そんなセリフを言うのは。
「…本当に悪いことする?宮原」



