「わぁー!きれー!」
連れてこられたのはホテルの敷地内にある遊歩道。
東京湾が一望できるウッドデッキが広がっている。
「だろ」
「うん!」
煌々と輝くビルの光。
それらが反射してキラキラと光る東京湾。
これぞ、都会。って感じの景色が広がる。
そして、ふわっと掛けられた菱田くんの上着。
「え…あ、ありがと」
「いや、委員長風呂上がりなの気付かんかった」
「…うん」
やっちゃんのせいだ。
やっちゃんが変なこと言うから、菱田くんの顔が見れない。
「つーか、髪乾かせよ」
「…だって、脱衣所混んでたから」
私がそう言うと、菱田くんはため息を吐いた。
それから暫く無言で歩いた遊歩道。
何で、2人でこんなムーディーなところ歩いてるのか。
何だか急におかしく思えて笑ってしまう。
「ふふ、あははっ」
そんな私を見て菱田くんは困った顔をした。
「さっきから静かだと思ったら、何だそれ」
「静かって…それは変に意識しちゃって…」
と、そこまで口に出してハッとする。
何を言っているんだ私は。
「じゃなくて、今日、楽しかったなぁって思い出して」
慌てて言い直したけれど、聞こえたのか聞こえてないのか、特に何も突っ込まずに「確かに、楽しかったな」と言った菱田くん。
「電車降りちゃったときは焦ったけど、菱田くんいてくれたし」
「うん」
「水族館で色んな魚見れて、巻くんと菱田くん仲良いんだなって思ったし」
「うん」
「浅草寺ではさすがに菱田くん逃げるかもと思ったけど逃げなかったし…」
「委員長」
「はい?」
いつの間にか目の前にいる菱田くんが私を見下ろす。
「委員長の思い出、俺ばっかじゃん」
「…え、」
くっ、と笑いを堪える菱田くんに、私はみるみる赤くなった。



