もう少しゆっくりしていくと言ったやっちゃんに、のぼせそうな私は先に行くねと声をかけた。
混雑する脱衣所をささっと着替えて出ると、ロビーのひんやりした空気が心地よかった。
ロビーにいくつかあるソファに、ポツポツと他のクラスの生徒が座っていた。
お風呂の順番待ちだろうか。
私は乾かし損ねた髪をタオルでポンポンと挟みながら、ロビーを通り過ぎ、エレベーターのボタンを押した。
やっちゃんに菱田くんの事を言われたからか、ずっと頭から離れない。
そういえば、紐を回収するの忘れていた。キーホルダーも。
その事を思い出したとき、エレベーターの扉がピンポンと音を立てて開いた。
「ひぃ!」
顔を上げるとエレベーターから降りてきた菱田くんに、思わず悲鳴が出てしまった。
「ビビった。何だよ」
頭の中にいた菱田くん本人が、突然目の前に現れたことに悲鳴が出たんだよって、そんなことは言えず、
「いや…人が乗ってると思わなくて、あはは…」
と誤魔化した私に、怪しい人を見るような視線を送る菱田くん。
「じゃ、じゃあね」
逃げるようにエレベーターに乗り込もうとしたとき、
それを引き止めたのは菱田くんだった。
「委員長」
「へ?」
間抜けな声を出した私の手首を握った菱田くんは「また、悪いことする?」と、ろくでもないことを思いついたような顔で笑った。



