「菱田くん」
少し前を歩く菱田くんのリュックの紐を掴む。
「んー?」
振り返って立ち止まった菱田くんと私の横を、他の観光客が避けながら歩いていく。
「……」
呼び止めておいて何も言わずに俯いたままの私に、もう一度菱田くんが「何?」と問う。
「えっと、…ありがとう」
キョトンとする菱田くんに、私は続けた。
「菱田くんのおかげで今日、すごい楽しい」
「………それは良かったね。俺別に何もしてないけど」
「何もしないでくれてありがとうってこと!」
照れくさくなって語気を強めてそう言うと、菱田くんは「何だそれ」と笑顔を見せた。
私の頭の上に手のひらを乗せて。
「おーい!雷門で写真撮ろうぜ」
やっちゃんと巻くんに呼ばれて戻ると、2人はニヤニヤしながら待ち構えていて…
「な…なに?」
私が警戒して近付くと、
「いや?なんかねぇ?こっちが恥ずかしくなるよなぁ?やっちゃんさん」
「分かる分かる巻くん。アオハルよねぇ」
おばさんの井戸端会議のようにそう言った2人。
私と菱田くんの仲をどうしてもそういう方向に持っていきたいらしい。
てゆうかやっちゃんと巻くんはいつの間に仲良くなったのか。
そして、雷門の前で4人並んで写真を撮って、2日目の自由行動は何事もなく幕を閉じた。



