「飛香、あのマンボウ見てよ」
「えっどれどれ?」
「小林先生に似てる」
「アハッ、本当だ!似てる」
はしゃぐ私とやっちゃんを他所に、男子2人は興味なさそうに水槽を眺めて歩いている。
聞き耳を立てると、ポツリとポツリと繰り広げられる会話は何とも言えない内容だ。
「なーなー、菱田。腹減らん?」
「分かる」
「俺、フィッシュフィレオ食いたい」
「お前よくこんな所でその発想浮かぶな」
「菱田は?」
「うーん。…アジフライ定食」
「お前もじゃねーか」
「もー!!やめてよ、2人とも!水族館で魚料理の話するの」
見かねた私がそう言うと、菱田くんと巻くんは顔を見合わせて吹き出して笑った。
「委員長アジフライ好きなんじゃないの?」
菱田くんに言われて思い出す。
そういえば昨日の夜、アジフライ定食と生姜焼き定食と迷ったんだった。
顔が広い巻くんに昨日の話が漏れるのも面倒なので「何の話?」ととぼけて返す。
「あれ。忘れた?昨日の夜…」
「ちょちょちょちょ…」
慌てて菱田くんの口を塞ごうと手を伸ばすと、簡単にその手は掴まれてしまった。
「冗談。腹減ったから飯行こ」
片方の口角をくいっと上げてそう言った菱田くん。
“バラさないから従え”
とでも言っているような顔だ。
「……分かったから」
ノーと言えない私は仕方なくプランを変更し、お昼ご飯を先に挟むことにした。
本当はこの後、雑誌に載っていたカフェに行くつもりだったのに!



