「なんでっ?!」
私は尻もちをついたまま菱田くんを見上げた。
「委員長が必死な顔して呼ぶから、」
よっ、と腕を持ち上げて立たせてくれた菱田くん。
「俺も降りちゃったじゃん」
そう言って笑った菱田くんが、この時ばかりは超絶ヒーローにみえた。
ホームのベンチに座り、旅のしおりを広げる。
私たちのグループの予定は全てこのしおりに書いてきた。
「えーっと、次の電車が…」
「何だこの過密スケジュール」
私からしおりを奪うと呆れたように言った菱田くん。
「しょうがないでしょ、行きたいとこたくさんあるんだから。よし、次の電車に乗れば間に合うからそれでやっちゃんたちと合流しよう」
私はスマホでやっちゃんに連絡をした。
「はぁ…俺ならひとりでどっか行くわ」
ボソっとそう呟いた菱田くんに「ごめんね」と謝った。
「私がぼーっとしてたせいで、巻き込んじゃって…」
さすがに、旅先でこの失態は落ち込む。
朝は菱田くんに偉そうなことを言っておいて、自分が迷惑をかけてしまった。
「べつに」
「……」
なんかシンミリした空気?
落ち込みすぎも良くないと思い話題を変える。
「けど菱田くん、そのまま逃げるチャンスだったのに」
「さすがに俺もこの状況で消えねぇよ」
「そうなの?」
「うん。いま俺が消えたら、委員長泣いちゃうでしょ」
そう言って私の顔を覗いた菱田くんの顔は、意地悪だ。
「…泣かないし」
「ホントかよ」
本当は、菱田くんが居てくれて安心したし、心強かった。
そんな事は言わないけれど。
すぐに次の電車が来て、今度は押し出されないように通路の真ん中まで進んだ。
心なしかさっきより人が少なくて、電車が揺れるたびに足元がふらつくけれど、吊り革には、届かない。
両足で踏ん張る私に、菱田くんは吊り革を掴んでいない方の手でリュックの紐を差し出した。
「こういう時に使わないと」
「あ、…ありがと」
私は受け取った紐をギュッと握って、電車の外を眺めている菱田くんを横顔を盗み見る。
いつもは振り回されてばかりだけど、今日はなんだか知らない一面を見せられている気がする。
視線に気付いた菱田くんが私を見下ろして「何?」と言った。
私は、なんでもないよと言っていつもより少しだけ早い鼓動に気付かないフリをした。



