「「わぁー!!!」」
見上げると、ビル、ビル、ビル。
空なんか少ししか見えないんじゃないかと思う。
「東京って、すごいねやっちゃん」
「うん、すごい!空気が洗練されてるよね」
二人でキャッキャと写真を撮りながらはしゃいでそんな事を言っていると、真後ろでチリンと鈴の音がした。
自撮りしていたスマホの画面には、わざとらしく映り込む菱田くんが。
「なにしてんの菱田くん」
「いや、委員長が紐握ったままだからじゃん」
「あっ…」
ついつい迷子にならないように菱田くんの紐を握っていたことを忘れていた。
使い方次第では意外と便利な紐かもしれない。
「お前らってさ、付き合ってんの?」
今日の行動を共にするもう1人の男子、巻くんが私と菱田くんを繋いでいる紐を指差してそう言った。
「付き合ってねーよ」
「付き合ってないよ」
同時にそう答えた私たち2人に「わはっ、ハモった」と茶化す巻くんの首を菱田くんが羽交締めにする。
私は握っていた紐から手を離した。
巻くんは、茶髪で制服も少し着崩したりしていて、ヤンチャな感じはあるけれど、人懐っこい。
クラスの皆んなに分け隔てなく接する、意外とムードメーカーだったりする。
菱田くんとも普通に喋るし、彼が一緒のグループなのはラッキーかもしれない。
「飛香、つぎ電車?」
やっちゃんに言われ時計を確認する。
「うん、そろそろ行かなきゃ。2人とも、行こう」
私が声をかけると菱田くんと巻くんは大人しく着いてきて、意外と従順で、拍子抜けしてしまう。
チラッと菱田くんを見ると、リュックからぶら下がった紐の先の輪っかをクルクル回しながら歩いてた。
なんだかんだ気に入ってるじゃん、と思いながらこっそり笑ってしまった事は、内緒にしておこう。



