『兄貴が好きな点心がある』と鉄さんに教わったお店をネット予約しておいた。
そのお店でランチコースを頂き、混雑する中華街をふらふらと歩く。
「さっき食べたばかりなのに、美味しい匂いに釣られますね」
「フッ、そうだな」
「あっ、パンダの顔したお饅頭だ。可愛いっ」
あちこちから香る美味しそうな匂い。
行き交う人が食べ歩きしていて、ついつい見てしまう。
「ッ?!」
「はぐれそうだから」
キョロキョロと目を奪われている私の手を彼がぎゅっと掴んだ。
初めてじゃないのに、やっぱりドキドキしてしまう。
「仁さん」
「ん?」
「私が記憶を失くす前は、こんな風に手を繋いでデートしてましたよね?」
「……ん、そうだな。デートっつうか、散歩みたいな感じか?あまり遠出はしたことがないけど」
「そうなんですね」
あっ、また切ない顔をさせてしまった。
やっぱりそうだよね。
前はもっと彼に甘えただろうし、私から彼にいっぱい話しかけてただろうな。
胸の奥でくすぶっていた感情が、今は胸いっぱいにもやついていて。
さすがにこのままではいけないと思わされる。
「今日はいっぱい甘える予定なので、覚悟して下さいね?」
「へ?……おぅ、望む所だ」
フッと柔らかい笑みを零した彼。
繋いでいる手が、さらにぎゅっと握られた。
「お香立て見たいです」
「お香?……じゃあ、もう一本向こうの通りにいい店がある」
「じゃあ、そこ連れてって♪」
「仰せのままに」
通りすがる女性の視線が彼に向けられる。
彼氏持ちの人でも、彼の美顔は別物らしい。
「仁くん」
「………え」



