姐さんって、呼ばないで

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「小春」
「おは……こんにちは、ですね」

十一月三日、文化の日。
祝日で学校がお休みということもあって、仁さんを初めてデートに誘った。

十時に迎えに来てくれた彼は、ブラックデニムに白いシャツ。
その上に今年流行のダサレトロ感のあるアーガイルのニットを合わせたコーデは、スタイルのいい彼が着るとカッコ良さが何倍も割増しされている。
黒いコートの裾を靡かせ、微笑む彼にドキッとしてしまった。

「どこ行くの?」
「電車でちょこっと」

車の免許を持っている彼なんだけど、事故以来運転していないと鉄さんから聞いている。
だから、組の人に心配をかけないためにも、高校生らしいデートがいいと思った。

「お昼ご飯は予約してあるので、今から電車で向かって少し早めのランチをして、その後にぶらぶら歩いてって感じです」
「だから、スニーカーか」
「はい」

メールで『スニーカーか、履き慣れたブーツ等で来て下さい』って連絡しておいたのだ。

今日は元町中華街でランチして、その後にまったりと過ごす予定。
特に何かをするってわけじゃないんだけど、彼にはゆっくりできる時間が必要だと思ったから。

祝日ということもあって、電車内は結構混んでいる。
いつも詠ちゃんがガードしてくれるみたいに、ドア横に私を立たせて彼が覆い被さるように立ってくれる。

あっ、いつもの香水の匂いだ。
ちょっぴりスパイシーな感じのシトラス系。
クラスの女子が彼の傍でクンクンと鼻を鳴らして嗅ぐくらい結構香り立っていて、大人カッコいい彼の雰囲気に凄く合っている。

「仁さん?」
「……あ、ん?」
「どうかしましたか?」
「いや、何でもない」