姐さんって、呼ばないで


「はい、次そこの二人~」
「兄貴、大丈夫っすか?」
「……おぅ」

名簿を手に、『こっちへ来な』と顎で指示する担任の最上。
仁の拳はわなわなと震え、鉄はそんな仁が今にも()ってしまいそうでハラハラする。

「兄貴、ここは姐さんのためにも我慢っす」
「……ってるよ」

この私立高校に入学するにあたり、学校側と取引した。
一、四方同席(生徒間で上座も下座もなく、同列ということ)
二、ヤキ(お仕置き、暴行)無し
三、行事も含め、単位を修得する

スタートの時点で出遅れた分、これ以上ヘタこくわけにはいかない。



愛しの小春が怪我を負ったというだけで気が狂いそうなのに、その原因が俺にあるかもしれないということが許せなくて。
半年前、事故の少し前から小春の様子がおかしかった。

『許婚の関係を解消したい』『少し距離を置きたい』などと、会えば耳を疑うようなことを言いだして。
あの日も、話し合いのためにデートに誘った。
彼女が俺の記憶を失うとも知らずに……。

小春の中で、俺との関係を清算したくて記憶を失ったのか。
新しい関係をスタートしたくて、失ったと嘘を吐いているのか。
今の俺には、ただ彼女の出す答えを待つ以外に方法がない気がして。

ただ原因が俺にあって、そのせいで小春が危険な目に遭うなら放ってはおけない。
離れた方が安全なことは分かっている。
けれど、どうしてもそれができない。

もう俺の人生に、彼女のいない世界はないのだから。