姐さんって、呼ばないで


「兄貴」
「どうした」
「知らねぇ奴らが見てるっす。偵察っすかね」
「……そうかもな」

河川敷でサッカーの練習をしていると、同じ高校の制服を着た男子三人が河川敷の上からこちらを凝視している。

「よーし、次はミニゲームするから、十分休憩な!しっかり水分摂って、小腹が空いた奴はエネルギーチャージしとけ!」
「「「う―――っす」」」

すっかりキャプテンが板についている仁。
メンバーを休憩場所へと移動させ、自分は鉄を連れて河川敷の上へと向かう。

「俺らになんか用っすか?」

身長百八十センチを超える筋肉質な男が二人、仁と鉄だ。
Tシャツの袖をノースリーブ状にたくし上げ、隆々の筋肉を見せつけて。

「あー俺ら?……アホみたいにやる気出して練習してる一年がいるって聞いて、見に来た」

『アホみたいに』という言葉に、仁の片眉がぴくっと反応した。
鉄は無意識に首を左右に傾げる。

「練習して何が悪い。そんなルールどこにもねぇだろ」
「あ?」
「俺らのクラスは話し合って決めたことだ。他のクラスの奴らにいちゃもん付けられる覚えはねぇ」
「っんだとぉ?!」

制服姿の男三人が立ち上がる。
けれど、身長でも迫力でも仁の方が圧倒的に上だ。
カタギの奴らに殺気で負けるはずがない。
極道最強と言われる桐生組の若頭なのだから。

「三年に勝たせてやるっつう暗黙のルールがあるみてぇだが、俺らのクラスは忖度しねぇ。どっからでもかかって来やがれ」
「生意気な奴だな」
「兄貴」

問題は起こすな。
事件を起こすな。
怪我はするな……担任との約束がある。

「見たけりゃ、好きなだけ見りゃあいい。鉄、行くぞ」
「へい」

踵を返した仁の後を追い、鉄も河川敷を降りてゆく。