九月上旬、よく晴れた日の一限目。
「それでは、今月末に行われる球技大会の種目別選手を決めたいと思います」
LHRの時間を使って、学級委員が取り仕切る。
「おい、鉄」
「へい、兄貴」
「球技大会って、何だ」
「球技の大会だと思いやす」
「タマ取りでもすんのか?学校って、安全なとこじゃねーのかよ」
「え?あ、いや、兄貴……たぶん違うと思いやす」
始業式の日に席替えをして、一番後ろの席に横並びになった仁と鉄。
仁の眼は一瞬でギラつき、黒板に向けられる。
仁から恐ろしい視線を向けられ、恐怖のあまり背筋が凍り付く、学級委員の染野 純也。
震える手で必死に黒板に種目を書き、それを見ているクラスメイトが一斉にざわつき始めた。
「ソフトボールとかバスケとか、そういうのみたいっす」
「……球は玉でも、タマ取りじゃねーのか」
危うく仁が暴れ出す一歩手前的な雰囲気を察した担任の最上。
窓枠に寄り掛かって見物してたが、教卓前に歩み出る。
「球技大会とは、普段あまり交わることのない他学年との、一種の異文化交流みたいなもの。うちの学校は総合学科だから、同学年であれば、選択科目で他のクラスの子との交流はあるわよね。けれど、さすがに学年が違えば、こういう行事がない限り、コミュニケーションを取る機会も少ない」
「けど、どうせ三年が勝つんだから、一年なんて適当でいいんじゃないの~?」
「それ、どういう意味だ」
クラスメイトの水上 眞の言葉に、仁の片眉がぴくっと反応した。