姐さんって、呼ばないで


こういう事に首を突っ込んで変に関わったら面倒くさいって分かり切ってるのに。
それを無視するなんて、私にはできない。

「思い出したのか?」

優しい声音が降って来る。
勝手にネクタイを結んでるのに嫌がる素振りもみせず、むしろ嬉しいような笑みまで浮かべて。

「ごめんなさいっ。……ただ、見過ごせなかっただけです」

きっちり結び終えた私は、彼からパッと手を離す。
すると、ぽふっと大きな手が頭に乗せられた。

「いいよ、分かってるから。無理しなくていい」

優しい声音だけれど、どこか切なさが滲んでいるような表情に胸がチクっと痛んだ。

「はい、次の人~」
「あっ、小春、うちらの番だ」
「うん」

男子の列より女子の列の方が先に進み、最後尾に並んでる私と詠ちゃんが呼ばれた。

「名前は?」
「栗原 詠です」
「もう一人は?」
「向坂 小春です」
「ゆっくりぐるっと回って」

担任の最上先生が名簿を、風紀委員の横沢(よこざわ) 行雄(ゆきお)先生が三十センチの定規を手にしている。
言われるがままにゆっくりと回転すると、横沢先生が定規を膝下にそっと当てた。

「ギリギリのラインだな。ウエストで折ってるのか?」
「っ……」

スカートの丈を短くするためにウエスト部分を折っているのがバレたようだ。

「あまり短くすると、ペナが付くわよ?」
「付くとどうなるんですか?」
「放課後に奉仕活動の一環として、学校の周りのゴミ拾いとか、校庭の草むしりとかが待ってるわね」
「ッ?!!」

最上先生の言葉に詠ちゃんと顔を見合わせた、その時。

「おい、ごらぁ、テメェ、(ひと)(シマ)に手ぇ出すとは、いい度胸してんじゃねぇか。校庭に埋めんぞ」