「兄貴」
「分かったか?」
「へい。どうやら、小澤組の仕業ではなさそうっす」
「そうか」

俺宛てに送られて来た一通の封書。
中には雑誌や新聞紙の文字を切り貼りして作られた『紙爆弾(怪文書)』が入っていた。

「『太陽・シール・鼓』、鉄…何を表してると思う?」
「何すかね……さっぱり分からねーっす」

仁が任されている不動産会社の一室。
昨日付で送られて来た紙爆弾を見据え、仁と鉄が眉間にしわを寄せる。

「大抵、こういう類はカエシ(報復)か、カタにはめる(陥れる)ためのカマシ(脅し)だったりしやすけど」
「……そうだな」

組に恨みを持つ奴は当然いる。
極道の中でも『桐生組』のやり方が気に喰わない組は結構多い。
だから、こんな風に脅迫めいたものも日常茶飯事ではあるが、ここ数か月落ち着いていたこともあって、すっかり忘失していた。

「組長に話さなくっていいんすか?」
「まだいい。もう少し様子をみて、何かしてくるようなら手を打つ」
「分かりやした」

コンコンコン。

「失礼します」

秘書の黒川(くろかわ) (みつる) が報告書を手にして現れた。

「例の開発地域に関する報告書です」

仁は黒川から報告書を受け取り、目を通す。

「やはり、かなりの吸い上げ(上納金)(ショバ代/みかじめ料ともいう)だな」
「放っておくんすか?」
「いや、うちのシマ荒らしたツケは払って貰う」