「鉄、例のブツは持って来たか」
「はい、ありやす。中々シャバ(社会)に出回ってない天然もののブツ(代物)なんで、手回して…」

目を見合わせ、不敵に微笑む仁と鉄。
二人の会話を耳にし、周りにいる生徒たちが硬直する。

「ちょっとちょっとっ!二人でそんな怪しい会話したら、それこそ通報ものだから!」
「ぁあ゛?」

近づけない独特のオーラがある二人に詠が合いの手を入れるかのように注意する。

「ブツだとかシャバだとか、カタギが使う言葉じゃないから」
「(いや、俺ら、……カタギじゃない)すまん」

フォローになってないフォローを何とかやり過ごし、仁と鉄二は持参した無農薬の薄力粉を溶き始めた。



「あっちぃ~~っ」

どこのグループでも火を使っていて、調理室の中は思ってた以上にもわっと湿度が高い。
窓は開けているものの、日中の気温に調理での熱気が籠って、仁はYシャツのボタンを二つ外した。

(きゃぁ~ッ!)
(チラ見え、エロ~~いっ)

隣りの班の女子の視線が仁の胸元に向けられる。
鍛え抜かれた体は、年頃の女子には刺激が強すぎるようだ。

「ちょっと、仁さんっ」
「あ?」
「愛しの彼女がいるのに、他の女子にフェロモン振り撒かないで下さいっ!」
「ぁあ゛?」
「(隣りの班の女子が見てるじゃないですか)全くもうっ!見せるなら、彼女だけにして下さいっ!」

詠に言われ、仁は小春に視線を向ける。
小春は洗い終わった調理器具を布巾で拭き上げしながら、苦笑した。

「小春」
「……はい。……??」

仁に手招きされた。
おずおずと仁の元へ行くと。