姐さんって、呼ばないで



桐生組本宅に到着すると、相変わらず強面の男性陣がずらっとお出迎え。
けれど、前回来た時も思ったけれど、よくテレビで観るような黒っぽいスーツにド派手なシャツ姿ではない。

青やグレーのつなぎを着た人もいれば、ジャージ姿に長靴を履いている人もいるし、カジュアルな格好の人も多い。
顔は威圧感のある強面で声もどすを利かせた感じだけれど、町工場や農場とかにいてもおかしくない雰囲気がある。

両親から話は聞いているが、極道といっても違法取引をするような組ではないと言っていた。
一昔二昔前なら『闇取引をする』=『極道』だったかもしれないが、今はだいぶ変わったと。

だからなのかな。
桐生組の人たちは、どこか親しみがある。

「姐さん、荷物をお預かりしやっす」
「え、あっ、大丈夫です!自分で持てますから」

玄関入ってすぐのところで、金髪の男性に声をかけられた。
仁さんの荷物は鉄さんが持っている。
だから、私に気を遣ったのかもしれない。

「本当に大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
「……身に余るお言葉」
「っっっ」

廊下にいた数人の男性が、一斉に頭を下げた。
ここでは御礼を口にするのも、ちょっと大変なのかな。

「姿が見えないようだが、出てんのか?」
「へい、姐さんは組長と組の用で出掛けてます」
「そうか。……下がってろ」
「へい」

さすが若頭。
明らかに年上だと思われる人でも従えている。

「ん?……仁さん」

仁さんの部屋は母屋の二階にあるのに、なぜか渡り通路のような長廊下を進む。

「小春の好きな部屋に」
「……私の好きな部屋?」