「姐さん?」
「あ、鉄二さん」
「鉄でいいっすよ」
どこからくすねて来たのか分からないが、段ボールを手にしている。
「では、鉄さんで」
「うっす。兄貴、これでいいっすか?」
「…おぅ、よこせ」
仁さんは自身の鞄からフェイスタオルを取り出し、それを箱に入れ、そこに猫を入れた。
「その猫、どうするんですか?」
「足怪我してるから、病院に連れて行こうかと」
「へ?」
箱の中の猫を覗くと、右足が血だらけになっている。
「帰るか」
「……はい」
「兄貴、自分が持つっす」
鉄さんは仁さんから猫の入った箱を受け取った。
正門を出ると、既に迎えの車が二台待機していて、一台は鉄さんと猫。
もう一台に私と仁さんが乗り込んだ。
組の人が動物病院に連れて行ってくれるらしい。
「さっきの猫、大した怪我じゃないといいですね」
「あぁ」
「猫、好きなんですか?」
「……そうだな」
少し照れたような表情を覗かせ、窓の外に視線を移した。
横顔ですら綺麗だなぁと見惚れるほどの美顔。
毎日のように見ていたであろうその美顔の記憶もないのが切なくて、無意識にそっと手が伸びていた。
パシッー―。
不意に伸ばした手の気配を察知したのか、彼に手を掴まれてしまった。
無言の車内。
私の行動が予期せぬものだったのか。
振り返った彼の顔が凄く驚いた表情をしている。
「ごめんなさいっ」
「……いや、構わない」
掴まれた手はそのまま彼の膝の上に。
尚も握られたまま、彼の手の体温が伝わってくる。
「エアコン止めろ」
「はい」
私の手が冷たいから?
すりすりと擦られる手だけでなく、車内には彼の優しさが充満していた。



