姐さんって、呼ばないで



「大丈夫か?」
「あ、はい、……何とか」

小春が久しぶりに来てくれたということもあって、母親のテンションがめちゃくちゃ高くて。
明らかに空回りと言わんばかりに『食べて』コールを連発し、元々小食の小春が限界というくらい頑張って食べてくれた。

「ごめんな、無理させて」
「……いえ、嬉しかったです。大事な記憶を失ってしまったのに、あんなにも歓迎して貰えて」

緊張していたのか。
俺の部屋に来て、やっと素の笑顔を見せてくれた。
ずっとひきつったような顔をしてたから。

ソファに座らせ、窓を開ける。
夜風に当たれば、少し気分も楽になると思って。

「あの……」
「ん?」

何だか少し言いづらそうにする小春。
もじもじと膝の上で指先を合わせている。

「きりゅ……仁さんって、私のどこが好きなんですか?」
「へ?」
「許婚だから?……だから、一緒にいたんですか?」

突然何を言いだすかと思えば……。
俺が小春を好きな理由なんて、決まってる。

「俺を一人の人間として見れくれるからってのが一番だけど、顔も声も好きだし、笑顔は可愛いし、照れてる顔は最高に可愛い」
「なっ……」
「自分で聞いといて照れてんのか?」
「んっ……だって」
「あとは、抱き心地が最高なんだよな」
「だっ、……抱き…心地って?!」
「………」

俺の『抱き心地』という言葉に反応した顔がめちゃくちゃ可愛かった。
俺の記憶がないということは、俺との関係もごっそりと消えたわけで。

初めて抱き締めた時や初めてでこチューした時も、もちろん初めてキスした時のことも忘れてるってことを意味している。
分かってたけれど、やっぱ辛いな。
何とも言えない虚無感や焦燥感に襲われた。

ゆっくりと照れている彼女に近づいて。