姐さんって、呼ばないで



「ッ?!……こ、こんばんは」
「「「「「姐さん」」」」」

仁が手配した車で本宅へとやって来た小春。
玄関前にずらっと並ぶ強面の男性陣に圧倒されてしまう。
地響きがしそうなほどどすの利いた声で『姐さん』と呼ばれた。

「小春」
「あ」

強面の男性陣の奥から、穏やかな声が出迎えてくれる。
何でだろう。
彼を見ただけでホッとしてしまった。

「小春ちゃん、いらっしゃい」
「ッ?!」
「俺の母親」
「……あ、初めま……ご無沙汰してます」
「こんな所じゃなんだから、上がって~?」

彼の母親であり、現組長の妻である女性。
綺麗な顔立ちは母親似なのかな?
物凄く美人で、女優さんにいそうな感じで色気もある。

この場所に、私は何度も来てるはず。
庭の景色や家の中のつくりに記憶はないが、何となく覚えていそうなものもある。
―――匂いだ。

青々しい井草の香り。
自分の自宅に和室がないから、馴染みがないはずなのに、何となく懐かしい感じがする。



見るからに高級な霜降り肉で作られたすき焼き。
甘い香りが充満して、口の中に入れると蕩けてなくなってしまう。

「ん~っ、美味しいですっ」
「よかったぁ、口に合うようで」

鉄二さんが『A五ランクの高級黒毛和牛っす』と耳打ちして来た。
やっぱり凄いお肉だったんだ。

すき焼きの他にも沢山の料理が座卓いっぱいに置かれていて、口にする度に取り皿に次々と料理が盛られる。

「沢山食べてね~」
「……もう、お腹いっぱいですっ」
「あっ、そう言えば、ケーキもあったわよね?誰か、持って来てちょーだい」
「俺が取ってきやす」

鉄二さんが勢いよく和室を飛び出して行った。
もうケーキの入る余地がないんだけど…。