姐さんって、呼ばないで



「兄貴、姐さんが来るんすか?」
「あぁ」
「よかったっすね」
「鉄、この時間に行ってケーキ買えるか?」
「……ル・クレールっすか?」
「ん」
「どうっすかね~、期間限定のは無理だと思いますが、定番のなら幾つか買えんじゃねぇっすかね」
「よし」

GWの連休に突入し、愛しの小春に逢えなくて。
事故前は、逢おうと思えばいつでも逢えたし、彼女の方から訪ねて来ることも多かった。
それなのにあの日以来、プツリと途絶えた俺との関係。
高校に入学し、再会したことでメールのやり取りができるようになりはしたが、それもほぼ一方通行。
彼女から返って来るメールは、簡素なもので社交辞令的な内容でしかない。

俺のことを思い出して欲しい。
けれど、無理にとは言わない。
思い出したくなくて思い出さないのかもしれないと思ったら、無理強いは返って毒にしかならないから。

小春の好きなケーキ屋、ル・クレール。
甘さ控えめで、フルーツがふんだんに使われたケーキが多く、甘いものが苦手な俺でも食べられる。

俺は鉄をお供に連れ、ル・クレールへと。
期間限定のケーキは、開店二時間前くらいから並んでないと買えないというくらい人気店で、記念日のケーキはいつも予約している。

小春の好きそうなケーキがあるといいな。

**

「姐さん、手伝うっす」
「あら、いいのに~。仁は?」
「シャワー浴びに行きやした」
「あの子も張り切ってるのね」
「そうだと思いやす」

事故以来、初めて桐生家本宅に小春が来るということもあって、仁の母親である可奈子(かなこ)も嬉しくて仕方ない。
小春の好物のすき焼きを準備しながら、心待ちにしている。