姐さんって、呼ばないで


教室へと戻った二人。
その手に握られている袋を眺め、教室中がどっとわき起こる。

机を並べ、着席している小春の元へ駆け寄った仁。
クラスメイトの視線が注がれる中、小春の目の前にプリンを置いた。

「例のブツだ」
「ッ?!!」
「仁さん、ホントに買えたの?」
「男に二言はねぇ」
「っっ……さすが、仁さん!」

驚きながらも納得とばかりに喜ぶ詠。
そんな彼女の隣りで、小春は仁をじーっと見つめる。

「あのっ……怪我はしてませんか?」
「怪我?……あぁ、あれくらい何ともねぇ」

記憶を失っている小春はどこか他人行儀な感じだったが、再会したあの日(制服検査の日)以来の彼女の優しさにジンと胸が熱くなる。
彼女はいつだって他人を思いやれる女性だ。
『極道』だからとか関係なく、中身の人間性で会話する人物。
だから、人を疑うような世界にいる仁でも唯一心を許したのだから。

「うわっ!四つも入ってる!!」
「せっかくだから、俺と鉄の分も」
「えっ、兄貴、いいんすか?自分も貰って…」
「ったりめーだろ」
「兄貴~~っ」

仁に懐く鉄二。
こういう日々の優しさが、鉄二には堪らない。

「仁さんたち、よかったら一緒に」
「えっ、いんすか?」
「コレ買って来て貰って、さすがに“はいどーも”とは」
「兄貴、よかったっすね」
「お前は一言余分なんだよっ」
「痛っってぇ」

ゴンッと拳を鉄二の頭に見舞った仁。
嬉しそうにバナナプリンを眺めてる小春を見て、照れ隠しのようだ。

「あ、これ兄貴の分っす」
「おぅ」

鉄二は朝コンビニで買った昼食を仁に手渡す。
仁の視線は自分の昼飯ではなく、隣りに座る小春の色鮮やかなお弁当に注がれていた。