姐さんって、呼ばないで



一年C組のベランダから飛び降りた仁と鉄二。
着地と同時に足底に鋭い衝撃を受けたが、普段から体を動かしている二人にとってはこれくらい朝飯前。

すぐさま体勢を立て直し、南棟の通用口へと一気に駆け出した。

キーンコーン、カーンコーン。
四限目の終了を知らせるチャイムが鳴り響く中、仁と鉄二は南棟の正面玄関内を突っ切り、購買のカウンターへと辿り着いた。

ダンッ。
トップスピードで辿り着いた二人は、購買のカウンターに両手をついた。

「ハァハァハァ……金ならあるっ……ブツを出せッ」
「ハァァッ、すんませんっ!バナナプリンっ、ハァ…ハァ、あるだけっ、全部ッ!!」

一万円札をカウンターに叩きつけた仁。
その横で鉄二がカウンター内に聞こえるように声を張った。

「お兄ちゃん、悪いけどもう少し細かくしてぇ」
「ぁあ゛?」

普段、舎弟に買い物をさせている仁は、『細かい』=『少ない金額』という概念がない。
仁にとって『細かい』とは『切り刻む』を意味していて『仁の言葉を断る』=『喧嘩を売る』を意味していた。

「兄貴、違うっす。千円札とかっていう意味合いっす」

すかさず鉄二がフォローすると、納得した仁は職員を目で追った。

「はい、バナナプリン。残り四個分だから、六百円ね」
「釣りは要らねぇ」
「は?えっ、お兄ちゃん、それは困るよっ!」
「いいから受け取れ」

職員から袋に入ったプリンを受け取った仁。

「鉄、戻るぞっ」
「あ、はい!おばちゃん、お釣りは甘いもんでも買って!」

教室へと舞い戻る仁の後を追い、鉄二もカウンターを後にした。