姐さんって、呼ばないで



四限目の世界史の授業がまもなく終わろうとしている。
壁掛け時計にロックオン中の仁と鉄二は、授業中なのにもかかわらず両手の指をポキポキと鳴らし、気合と根性を入れるためか、肩と首を回す。
先週のリベンジをと、仁と鉄二は異様に殺気立っていて、そんな二人に世界史の教諭 三上(みかみ) 豊子(とよこ)(四十七歳)は背筋を凍らせていた。
彼らの眼は、完全にカタギの者では……。

二人のターゲットが『バナナプリン』だということを三上教諭以外は知っている。
到底不利なこの教室から、本当に確保(ゲット)できるのでは?と思えてしまうほど、みんなの関心が集まっているのだ。

(頑張って下さいっ)
(応援してます!)
(おぅ)

仁の近くの席の子が小声で声援を送る。
仁は余裕の笑みを浮かべ頷き、心配そうに視線を送る小春に微笑み返す。

終了を知らせるチャイムが鳴るまで一分を切った、その時。

「では少し早いけど、今日はこれで終わりにします。日直」
「起立」

ガタガタッと椅子を引き、席を立つ生徒たち。
仁の眼が少し斜め前に座る鉄二を捉えた。

「礼」
「鉄っ!」
「っしゃあぁぁっ!!」

クラスメイトが『ありがとうございました~』と口にする中、仁と鉄二は生徒の間を縫って飛び出した。

「えぇぇ~~ッ?!!」
「ぅぉおおおっ、マジかっ?!」
「キャァアッ、ちょっとあなたたち~~っっっ」

鉄砲玉のように勢いよく飛び出したのは、階段がある廊下ではなく、南校舎のある側の窓の外だ。
掃き出し窓からベランダへと出た仁と鉄二は、手摺りに手をつき、ガードレールを軽く飛び越えるかのようにひゅっと飛び越え、姿を消した。