心臓移植をしたら、ドナーの記憶が移植後の人に刻まれるとか。
前世の記憶で懐かしい感じに思うとか。
そんな神秘的なこととは全然違うかもしれないけれど。
でも、彼は私に嘘を吐かないし、こうして大事にしてくれる。
たかが『バナナプリン』なのに。
三限目にある現代国語の小テスト対策ではなく、バナナプリンをゲットするために今も必死になって…。
鉄二さんの話によると、桐生さんは極道ということもあって学校生活が殆ど遅れなかったらしい。
だから、幼い頃から英才教育的に家庭教師があてがわれ、高校には行ってないが実力は折り紙付き。
本来なら大学に入学する年齢だが、高校卒業していないため受験資格がないという。
けれど、実際は偏差値70を優に超えていて、極道ではなく、カタギとして高校受験していたら有名進学校に行ってたはずだという。
家業である不動産や建築会社の経営にも携わっていて、理系は特に得意らしい。
勉強ができるうえ、身体能力は超人的だと鉄二さんはいう。
幼い頃から武道を始め、護身用として身に付けたもの。
一見すらりとしているから貧弱そうに見えてしまうが、実際は鋼のように強靭なうえ、美しくしなやかな筋肉だという。
組長の息子だからではなく、努力して身に着けた彼だからこそ、全幅の信頼を寄せているらしい。
失った記憶が気になって少しずつ過去を知ろうと努力をしてみるが、彼らの人間性を知ることはできても、簡単に記憶は蘇らない。
優しくされればされるほど、もどかしくなる。
彼らにとって、私の存在ってどんな価値があったのだろうか。
「兄貴っ、天才っす!!その手があったか!」
突然教室内に、鉄二さんの声が響き渡った。



