姐さんって、呼ばないで



翌週の月曜日の朝。
登校して来たクラスメイトの猪野(いの) 真里(まり)が小春と詠に声をかけて来た。

「ねぇ、向坂さんたち。……あの人たちは何をしてるの?」

教室の一番後ろの席を分捕り、大きな紙に向かいブツブツと念仏を唱えるみたいにしている仁と鉄二。
先週のリベンジにと校内図を作成し、徹底的に画を描いて(作戦を練って)いるようだ。

二人が極道だということも、仁が桐生組の若頭だということも既に周知されていて、小春が仁の婚約者だということも知られている。
極道の人が同じクラスにいるということで、当初はクラス内も騒然としたが、担任の最上の説明もあって、今は『ちょっと変わってる人』的な感じに収まっている。

仁と鉄二もまた、小春に迷惑がかからないように、カタギの高校生として振る舞う覚悟で入学したからだ。
全ては、……小春のために。

「購買の限定バナナプリンを買うための作戦みたいだよ」
「あぁ~、知ってる!この高校の伝説プリンってやつだよね」
「そそ。入学当初から毎日のようにトライしてるんだけど、うちらじゃ買えないから」
「へぇ~、なんか意外だね。彼らなら反則技使いそうなのに……って、あっ、ごめんねっ、向坂さん!」
「あ、ううん、大丈夫」

『許婚』だから、変に気を遣わせてしまったらしい。
極道だから、悪事をして当然と思われてもおかしくない。
けれど、何でだろう。
彼はそんなことはしないって、無意識に信じてしまってる。

「私ね、半年前の事故で彼の記憶がなくて。……極道の人でも、彼はどこか違う気がするの、変な話なんだけど」
「それって、潜在的に残ってる記憶なんじゃない?」
「潜在的に……?」
「うん、そういうのよく聞くじゃない」