「鼻にだけは入れないでね」
「それはそれで面白そうだな」
「いや、ホントに冗談抜きで」
「あーはいはい」
背中越しに笑いを堪えてるのが分かる。
だって、彼はただ単にうどんを箸で掴んで持ち上げたらいいだけだもん。
私はみんなに見られながら、儀式のルール?に則って一気食いしないとならないんだから。
「姐さん、ガンバっす」
鉄さんが応援してくれるけど、ひきつった顔しかできない。
できることなら、こんな儀式、なかったことにしたいのに。
「小春、行くぞ?」
視界にある彼の左手にはどんぶり、右手には箸。
目の前には無数のスマホ。
望むところだ!!
「仁くん、もう少し右の方のを掴んで」
「……右?」
どんぶりと言ってっも、ミニ丼サイズ。
上手く掴んで貰えれば、口に頬張るのも楽になる。
「あっ、ダメ!もうちょっと、そぉ~っと……あぁ~そこじゃなくてっ」
「……フフッ、やべ…」
「え、……何、どうしたの?」
「姐さん、エロいっす」
「は?……やだっ、そんなつもりじゃッ」
両親のいる前で何をさせてんのよ、ホントに。
苦笑する父親に対して、母親は楽しそうにスマホの画面を見入ってる。
何なのよ、この羞恥プレイは。
「もういいから、早くしてっ」
「悪ぃ」
零さないように汁は少なめになっていて、麺を掴みやすいように凹凸のある箸先。
湯気はないから、熱くはないのだろう。
ゆっくりと持ち上げられる箸先を大きな口を開いて迎えに行った。
思いきり吸い上げ、一度に吸い上げきれず、鼻で呼吸し、再びトライ。
限界と言わんばかりに頬張って、見事に口の中に全部収めた。
「お見事!!」
「さすが、姐さんっ!」
歓声と拍手とフラッシュの嵐。
大好物のうどんで、また一つ想い出ができた。



