姐さんって、呼ばないで


「何、どうしたの?」
「若と姐さんのラブラブツーショット撮りたいんすよ」
「あら、そんなこと?」

大人たちは宴会開始と同時にお酒で乾杯し、既にほろ酔い気分の人もいるほど。
普段は酔ったりしないママさんだけど、今日はいつもよりペースが早そう。
お酌中だったのか、瓶ビール片手に私たちの元へとやって来た。

「仁、主役なんだから、もう少し場を盛り上げなさいよ」
「無茶言うなよ。……ってか、小春がドン引きしてんだろうが」
「小春ちゃ~ん、うちにお嫁に来たら、こんなの日常茶飯事だからねぇ~」

“そんなこと”も聞き流せなかったのに、こういう無茶ぶりが“日常茶飯事”だなんて。

今までも“くっついて~”だとか、“ほっぺにチュー”だとかオーダーがあったことはある。
マンションに飾ってある写真がそれだ。
過去を振り返って思い出すと、本当に恥ずかしいことをよく平気でしてたなぁと思う。

たぶん私が幼すぎて、あまり意識してなかったのだろう。

けれど、私ももう十六歳になる。

恋愛のいろはも、結納の意味も理解している。
……だからこそ、余計に恥ずかしいし緊張だってするのに。

「鉄、……例のを持って来い」
「あ、あれっすね!すぐ持って来ます」

仁くんは目の前の御膳を少しずらした。

「お前さんっ、仁がするみたいよ」
「おぅ、そうか。(ふみ)(私の父親史哉(ふみや))、祥子(しょうこ)ちゃん(私の母親)、始めるそうだから」
「じゃあ、スマホスマホ!」

組長であるパパさんが私の両親に声をかけ、周りにいる組員の人達も一斉に集まり出した。

「仁くん、……何なの?」
「ん?……ん~」

彼の視線が左斜め上を泳ぐのを私は見過ごさなかった。